まなびの計画を立てる(後編)
Ⅱ.看護師として必要なまなびの内容を確認する
- 次に、それぞれの能力を向上させるために、どんなことを学んでいく必要があるか確認しましょう。「看護実践能力に基づく学習項目」の中で、看護師が様々な機 会や方法で学習する必要のある、学習項目と知識の例を示しています(表2)。
- この学習項目は、看護師として活躍してきた年数や活躍している領域などに関係なく、すべての看護師が学ぶべき項目として共通に示すものです。自分の興味関心やこれまで得られた学習機会や経験では、学習が不足している項目があるかもしれません。生涯学習を計画する際には、この学習項目をよりどころにして、進めていきましょう。
- 一方、知識の例は、あくまでも「例」として参考にして、活躍している領域などに応じて必要な学びや、知識・技術は何か、自分は何を学ぶ必要があるかを考えてみましょう。あなたが活躍する看護の領域で必要となる知識・技術などの内容について、さらに確認したい場合には、各領域の学会が示すガイドラインなどが参考となるでしょう。
- また、これらの学習項目に関連した知識などの内容は、一度学べば充分で、 学び終えたと考えてもよいのでしょうか?
- そうではありません。この学習項目の中には、人々に安全に看護を提供するために、すべての看護師が定期的に学び直し、知識を維持・更新し続けることが重要な学習項目もあります。例えば「看護師の責務と職業倫理」、「医療安全」、「感染管理」などです。これらの学習項目は意識をして定期的に学び直すようにしていきましょう。
| 能力 | 能力の構成要素 | 学習項目 | 知識の例 | |
|---|---|---|---|---|
| 知識や考え方等 | 関連するガイドラインや資料等 | |||
専門的・倫理的・法的な実践能力 |
アカウンタビリティ(責務に基づく実践) |
看護師の責務と職業倫理 | 人々の健康に携わる職種としての社会的責任、判断および実施した行為への責任、権利擁護、守秘義務 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」 |
| 実践する看護の説明と結果への責任 | 説明と同意(インフォームド・コンセント / アセント)、説明方法、看護記録の必要性と書き方 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」、 「看護業務基準 2021年改訂版(日本看護協会、2021年)」、 「看護記録に関する指針(日本看護協会、2018 年)」 | ||
| 自身の能力の判断に基づき行動する責任 | 看護師に求められる能力の水準、能力評価・アセスメントの指標 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」、 「 看護業務基準 2021年改訂版(日本看護協会、2021年)」、 『看護実践能力』(表1)および『看護実践能力習熟段階』(表3) | ||
倫理的実践 |
基本的人権の尊重 | 健康(ウェルビーング)、日本国憲法、自己決定権、性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブヘルス・ライツ) | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」 | |
| 多様性の理解と推進 | 多様な文化・価値観の尊重、共生社会、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)、ジェンダー平等(LGBTQ 等) | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」 | ||
| 医療・看護実践における倫理 | 生命倫理、医療倫理とその原則 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」、 「 看護職のための自己学習テキスト 基礎知識編(日本看護協会ホームページ)」 | ||
| 倫理的課題への気づきと行動 | 倫理的な課題や葛藤への気づき(倫理的感受性等)、倫理的な決断と行動(協力、対話等) | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」、 「 看護職のための自己学習テキスト 基礎知識編(日本看護協会ホームページ)」 | ||
法的実践 |
看護師の役割の関連法令 | 医療法、保健師助産師看護師法、看護師等の人材確保の促進に関する法律、その他の保健・医療・福祉の関連法令 | ||
| 看護師の業務の関連法令等 | 保健師助産師看護師法、保健・医療・福祉の関連法令 | 「 看護業務基準 2021年改訂版(日本看護協会、2021年)」 | ||
| 個人情報の保護・管理の関連法令 | 個人情報の保護に関する法律、その他情報管理等の関連法令 | 「 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(厚生労働省、2023 年一部改正)」 | ||
| 情報の取り扱い | デジタル機器・情報管理システム・SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の適切な利用、法律および倫理的な判断に基づく情報の取り扱い | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」、 「 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(厚生労働省、2023 年一部改正)」 | ||
臨床実践能力 |
ニーズをとらえる力 |
対象者との信頼関係の構築 | 自己理解と他者理解、信頼関係構築のためのコミュニケーション、ラポール形成 | |
| 情報収集の方法 | ニーズ把握のためのコミュニケーション技法、面接の技法 | |||
| アセスメント(身体面) | 臨床病態生理、臨床推論、フィジカルアセスメント、検査結果のアセスメント(臨床検査・画像検査等) | |||
| アセスメント(心理・精神面) | 認知機能評価、精神状態のアセスメント、心理的発達のアセスメント | |||
| アセスメント(社会面) | 生活のアセスメント、家族アセスメント、社会資源のアセスメント | |||
| アセスメント(スピリチュアル) | 死生観や信条等のアセスメント、文化・宗教の理解、スピリチュアルペイン | |||
| アセスメントの統合 | 情報の整理、多様な情報の統合と理解、全人的アプローチ | |||
ケアする力 |
看護計画 | 看護問題・看護診断、看護計画の立案方法、クリニカルパス | ||
| 看護の実施と記録 | 看護計画に基づく看護の実施、看護師の臨床判断、看護記録の監査と評価 | 「 看護記録に関する指針(日本看護協会、2018 年)」 | ||
| 実施した看護の評価 | 看護実施後の評価、看護計画の評価と変更、クリニカルパスのバリアンスへの対応 | |||
| 看護技術 | 日常生活援助技術、治療・処置に関する技術、医療関連機器の取り扱い、セルフケア向上に関する技術・教育方法 | |||
| 状態や疾病に応じた看護・医療提供 | 主要疾患の病態と治療、病期に応じた看護、緩和ケア、メンタルヘルス不調への支援、意思表示が難しい人々への支援、人生の最終段階にある人々への支援 | |||
| 地域での療養生活支援 | 疾病予防、ケアマネジメント、療養と生活を支える社会資源 | |||
| 臨床薬理 | 薬物動態、主要な薬物の薬理作用と副作用、与薬 | |||
| 疾病・臨床病態 | 主要疾患の臨床病態と治療 | |||
| 緊急時の対応 | 一次救命処置、二次救命処置、災害時の支援 | |||
意思決定を支える力 |
看護・医療の方針等を話し合うプロセス | 意思決定のプロセス、意思決定における葛藤、アドバンス・ケア・プランニング(ACP) | 「 人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省、2018 年改訂)」、 「 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(厚生労働省、2018 年)」 | |
| 意思決定を支えるコミュニケーション | 対象者に応じた情報提供、意思決定の考え方やモデル(シェアド・ディシジョン・メイキング等) | 「 看護職のための自己学習テキスト 事例検討編(日本看護協会ホームページ)」 | ||
| 意思決定の関係者への支援と連携 | 家族等への支援、代理決定とその葛藤、成年後見人制度 | |||
協働する力 |
多職種・組織の理解と協働 | 保健・医療・福祉チームにおける各職種および組織の役割・機能、多職種協働実践、看看連携 | ||
| 多職種協働におけるコミュニケーション | コミュニケーション技法(アサーティブコミュニケーション、ネゴシエーション等)、カンファレンスの運営、コンサルテーション | |||
リーダーシップとマネジメント能力 |
業務の委譲/移譲と管理監督 |
看護チームにおける業務の委譲と実施 | 各看護職(保健師・助産師・看護師・准看護師)の法的権限、看護補助者の役割、業務委譲時の自身の役割と責任(業務遂行のプロセスや完了の確認等) | 「 2021年度改訂版 看護チームにおける看護師・准看護師及び看護補助者の業務のあり方に関するガイドライン(日本看護協会、2021年)」 |
| 他職種への業務の移譲と実施 | 他職種の法的権限(各職種の役割に関する法令)、医療関係職種におけるタスク・シフト / シェア、業務移譲時の自身の役割と責任(業務遂行のプロセスや完了の確認等) | 「 看護の専門性発揮に資するタスク・シフト / シェアに関するガイドライン(日本看護協会、2022 年)」 | ||
安全な環境の整備 |
医療安全 | 医療事故等の予防と発生時の対応、安全文化の醸成、医療・看護の質保証 | ||
| 感染管理 | 感染症予防・対策、感染拡大の防止とサーベイランス、薬剤耐性 | |||
| リスク管理と危険への暴露防止 | ハラスメントや暴力へのリスク管理と対策、危険性のある医薬品等の取り扱い(麻薬や抗がん剤等の管理・保管を含む)、放射性物質・機器の管理 | |||
| 災害への備えと対応 | 災害への備え(防災・減災)、災害の種類や人々への影響、災害発生時の対応(事業継続計画(BCP)に基づく対応等を含む) | |||
組織の一員としての役割発揮 |
組織の目的・目標達成への貢献 | シェアドリーダーシップ(メンバーシップやフォロワーシップを含む)、心理的安全性、チームマネジメント、意見等の対立への対応(コンフリクトマネジメント等) | ||
| 業務管理 | 時間管理、物的資源の管理、医療・看護提供にかかる費用(コスト)の意識、所属組織における業務の基準・手順 | 「 看護業務基準 2021年改訂版(日本看護協会、2021年)」 | ||
| 業務改善 | 問題・課題解決の手法、業務改善のフレームワーク等の活用、PDCA サイクル(計画 :Plan- 実施 :Do- 評価 :Check- 改善 Act) | |||
専門性の開発能力 |
看護の専門性の強化と社会貢献 |
看護師として社会に貢献する責務 | 健康問題の背景にある社会課題への理解、地域社会・国際社会から求められる役割を果たす重要性、グローバルヘルス、SDGs(持続可能な開発目標) | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」 |
| 保健・医療・福祉の制度・政策 | 日本の医療・介護・福祉制度、看護の制度・政策、地域包括ケアシステム | |||
| 保健・医療・福祉の最新の動向 | 保健・医療・福祉に関連する近年の統計(人口動態等)、実践の領域に関連する最新の技術や近年の調査・研究等、社会や地域におけるニーズの変化 | 「 厚生労働白書(厚生労働省、各年)」 | ||
| 専門職としての活動への参画 | 学会の参加・活用、職能団体の活動、政策提言活動、調査・研究 | 「 日本看護学会(日本看護協会ホームページ等)」 | ||
看護実践の質の改善 |
看護のエビデンス構築と発展に関わる責務 | エビデンスに基づく医療・看護の実践、データリテラシー、調査・研究 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」 | |
| エビデンスに基づく看護実践と改善 | エビデンス等の参照方法、看護実践の成果の可視化と評価、看護の質評価の仕組み、学会発表、論文投稿 | 「労働と看護の質向上のためのデータベース(DiNQL)事業(日本看護協会ホームページ等)」、 「最新看護索引(日本看護協会ホームページ等)」 | ||
| 他者への学習支援と指導 | 成人学習の特徴やプロセス、フィードバック、ファシリテーション、研修の企画・実施・評価 | |||
生涯学習 |
自身の生涯学習・能力開発を図る責務 | 自律的な生涯学習とキャリア形成の重要性、看護師に求められる能力の水準、自己教育力 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」、「看護師のまなびサポートブック(日本看護協会、2023年)」、 「生涯学習支援ガイドブック(日本看護協会、2023 年)」 | |
| 自身の能力の開発・維持・向上 | 生涯学習の方法、実践の振り返り(リフレクション)、越境学習、メタ認知、看護職の資格・研修制度(特定行為研修、専門看護師・認定看護師・認定看護管理者) | 「看護師のまなびサポートブック(日本看護協会、2023年)」 | ||
| キャリアデザイン | 自律的なキャリア形成の重要性(キャリア・オーナーシップ等)、キャリアの棚おろし、ライフステージに応じた働き方や学び直し、ポートフォリオ、ナースセンター | 「看護職のキャリアデザインシート(厚生労働省、2023 年)」 | ||
自身のウェルビーイングの向上 |
自身のウェルビーイングを図る責務 | 看護師自身のウェルビーイングの重要性、健康管理、メンタルヘルス、睡眠 | 「 看護職の倫理綱領(日本看護協会、2021 年)」 | |
| 健全な職場づくり | 労働安全衛生(関連法令を含む)、コミュニケーション技法(アサーティブコミュニケーション等)、心理的安全性、ヘルシーワークプレイス | 「看護職の健康と安全に配慮した労働安全衛生ガイドライン (日本看護協会、2018年)」、 「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック 第2版(日本看護協会、2016 年)」 | ||
| セルフケア | ストレスマネジメント、リラクゼーション、自己肯定、レジリエンス | |||
自分の看護実践能力の習熟段階を確認する
学びを進めるときには、今自分の看護実践能力がどの段階にあるのかを客観的に評価して、次の段階に向けて学ぶことが効果的です。その能力の開発・到達の状況を確認し、 さらに次に向かう先を示す指標として、各種習熟段階(ラダー)が活用できます。
「①看護師として活躍するために必要な能力の全体像を確認する」 表1で示した看護実践能力の習熟段階については、「看護実践能力習熟段階」として示しています(表3)。
この「看護実践能力習熟段階」では、必要に応じ助言を得て実践する「新人」から、 より複雑な状況において創造的な実践を行い、組織や分野を超えて参画する「Ⅳ」までの5段階で、各能力の習熟段階が示されています。能力開発は段階的に行うことが重要です。それぞれの能力について、今自分の能力の開発の状況はどの段階であり、 次の段階はどのようなものか、確認しましょう。
また、各組織において、求める人材像に基づき習熟段階が提示されている場合もあるので、あなた自身が働き所属している組織において、習熟段階(ラダー)があるか、 あるとしたらどんな内容が示されているのか、確認してみましょう。
まなぶ方法を知る
コラム「生涯学習ってなに?」にあるように、生涯学習の方法は様々で、研修受講に限らずもっとも身近なものとして、日々の実践を通じた学びがあります。実践は学びの宝庫です。看護実践や事例を振り返ることで学びを得ることができます。また、 学術集会へ参加して、他の人の発表や様々な講演を聞くことも知識を得ることにつながります。
さらには、書籍から学ぶ、集合研修に参加する、という形に加え、オンデマンド研修のように自分の予定に合わせてオンラインを活用して学ぶ形や、自主勉強会のように参加者相互で主体的に学ぶ形もあります。
また、長い看護師としてのキャリアの中では、大学院に進学するなどにより、いったん実践の場から離れて集中的に学ぶという方法もあります。 このように、生涯学習の方法は様々なので、何を学ぶかということだけではなく、どのように学ぶか、ということも、計画することが必要になります。
目標と学習の計画を立てる
ここまで、将来の姿を描き、看護師として必要な能力を知り、自分自身の状況を客観的に評価することを述べてきました。
いよいよ、生涯学習の計画の立案です。
看護師として必要な能力は様々にありますが、優先的に能力開発が必要な部分を整理して、能力開発のための学習計画を立案しましょう。優先的に能力開発が必要な内容は2つあります。それは、今の活動に必要な能力と、将来に向けて必要な能力です。 それぞれの目標について、まずは書きだしてみましょう。繰り返し述べているところですが、まずは書いてみる、言語化してみる、ということが大切です。
はじめて自分自身で生涯学習に取り組み始めるときには、「あなたが望む将来の姿(ビジョン)を描く」、「看護師として活躍するために必要な能力の全体像を確認する」、 「自分の看護実践能力の習熟段階を確認する」、「目標と学習の計画を立てる」、という 一連の流れを、とにかくまずは書いてみることから進めましょう。いきなり大きな目標を立てると、実際に取り組んで達成するのが難しいこともあるため、まずはあなたが実際に取り組み続けて、達成のために努力できそうな計画を立てることがコツです。あなたの望む将来の姿に向かって、第一歩を踏み出しましょう。
